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Xin chào(シンチャオ:こんにちは)!
 日本では記録的な猛暑が続いているようですが、雨季(4月~8月)に入ったホーチミンでは暑さも和らぎ、最近は過ごしやすい日々が続いております。最近(7月中旬執筆時点)は、ライチに続いて、大好物のマンゴスチンが旬の季節となり、「果実の女王」と言われる、その魅惑の甘さで癒される毎日です。

 今回は、ベトナムM&Aの最大障壁でもある「二重帳簿問題」に関して、前回ご紹介したその背景に続き、対応策についてお話ししたいと思います。

ベトナムの“二重帳簿問題”に対応する2通りの手法

 買収対象のベトナム企業に「二重帳簿」や「三重帳簿」が見つかった際に取る対応策には大きく2種類の手法があります。

  1. 「表明保証」+「税務調査義務」
  2. 第2会社方式

 それぞれについて解説していきます。

1. 「表明保証」と「税務調査義務」のセットでシングルブックへ切り替える

 まずお話しするのは、もっとも代表的な手法とも言える、「表明保証」と「税務調査義務」をセットで実施し、シングルブック(単一会計帳簿)へ移行させる方法についてです。
 「表明保証」とは、売り手(譲渡側)が買い手(譲受先)に対し、その譲渡企業に関する一定の事項(財務や法務)が正確であることを表明し、その内容を保証する事です。最終契約書において、対象会社の事業状況、財務状況等を網羅的に盛り込んで表明保証を行うことが一般的です。

「表明保証」に織り込む内容

  • 二重帳簿(三重帳簿)を含め、出資前の事象に起因する一切の損害や過失に関しては、全て譲渡側の負担と責任で賠償するものとする
  • 出資後に、シングルブックへ移行することを譲渡側の義務とする

「税務調査義務」について

 上述の「表明保証」と併せて行うことは「税務調査の義務付け」です。具体的には、ベトナムの税務当局から、直近事業年度までの税務調査を受け入れることをクロージング条件に盛り込みます。これには、出資前に税務リスク(買収価格の減額)を顕在化させる効果があります。
 因みにベトナムの税務当局は、前回実行した税務調査対象期間に遡って(再)調査を行うことは論理的に可能ですが、実務的には租税回避行為が極めて悪質もしくは重大であったことが発覚した場合を除いて再調査はまれであり、上記の方法である程度将来的なリスクを固定化することが可能です。
 
 ただし、この手法の注意点としては、出資前と出資後において(適正な)会計処理へ急激に舵をとることにより、過年度の会計処理とのギャップが目立ち、むしろ現地当局の疑惑を招く恐れがあるところです。専門家と相談の上で理想と実務の間でバランスを取って、慎重に移行期間を設けて検討することが不可欠となります。

2. 第2の会社を設立する方法

 別の手法として、新会社を設立した上で、事業譲渡により事業資産を新会社に移行して、旧会社の税務リスクを切り離すという「第2会社方式」とも言われる外科的な手法も検討可能です。特に深刻な税務リスクが想定される場合において、税務リスクやその他の重大なリスクを遮断するには最も効果的な方法です。
 ただし事業用の固定資産のみならず、取引契約、仕入契約、雇用契約、賃貸契約という無形資産を、事業を中断することなく旧会社から新会社へ円滑に移行する必要があり、大きな労力、時間とコストが要求されます。また新会社において、事業ライセンス/投資ライセンス、またその他行政上許認可をゼロから新しく取得することが必要となり、難易度のハードルを更に押し上げます。
 この手法を取り入れ、新会社への完全移行をクロージング条件にした場合は、契約書内に違約金(手付金)条項を設ける等、当事者における経済的コストを考慮にいれることも必要になります。
 なお、ベトナム企業法上でも会社分割という考え方もありますが、実務上は極めて煩雑で不明瞭な手続きでほとんど使われておりません。

M&A成功への鍵は、覚悟・誠意・志

 これらいずれの手法を取ったとしても、譲受側と譲渡対象会社には大きな負担が伴うものであるのは間違いありません。二重帳簿からの脱却は、なかなか頭でわかっていても、実務面では簡単なことではありません。取引先を巻き込んだ長年の商習慣(商取引)を断ち切ることができるか、個人企業としての税務を最優先してきた会計部門の思考回路を正していくことができるか、既存の仕組み、そして考え方の変革を迫る大手術となります。

 買い手(譲受側)で確認すべき大前提としては、売り手(譲渡側)企業の経営陣が、M&Aを実行後(新しく投資家を迎え入れた時点より)、透明性のあるシングルブック(単一会計帳簿)に移行し、不適切な現地プラクティスから今後一切決別する「覚悟」があるか。そして、過去の悪しき慣習に起因する全ての過失損害に責任を潔く取ってもらう「誠意」があるか。この2点の確認と見極めが非常に重要になります。また、譲渡企業の短期~長期目線での会社の発展、そして「個人会社」から「社会の公器」への成長を目指す、譲渡側経営陣の「志」の真剣さが試される事となります。

グローバルスタンダードで誇れる企業へ

 最終的には、この問題を全て譲渡側企業に押し付ければ良い画一的な問題ではありません。日本の常識だからと押し付けてばかりいても、譲渡側からベトナム現地の常識はこうだという反発により、二者択一の議論で終始します。
 そうならないようにするには、双方が少し目線を上げて、日越の枠組みを越えたグローバルスタンダードで誇れる企業を、このM&Aによりベトナムで作り上げるというビジョンを共有することが肝要です。(二重帳簿問題解決後の)長期的な発展と成長に向けて、双方がお互いに対してどのような貢献できるか、それぞれが具体的な企業提携シナジーを率先して発信していくことができれば理想的だといえるでしょう。

 今回と前回は、2回にわたり重めの議題「二重帳簿問題」に関してお話しました。次回はベトナムM&Aを検討における競争環境に関してお話ししたと思います。
Chào(チャオ:ではまた)!
※第1弾・第3弾はこちらからお楽しみください。
ベトナムM&Aの問題編 その1:何故二重帳簿が存在するのか?
ベトナムM&Aの問題編 その3:ベトナムM&A投資の競争環境
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