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 日本M&Aセンターの海外事業部でインドネシアのクロスボーダーM&Aを担当している徳永です。
 世界4位の人口があり、これからさらに成長を遂げることが予想される成長市場のインドネシアにおけるクロスボーダーM&Aについて、その魅力と併せてM&Aにおける難しさについて紹介します。

インドネシアでのクロスボーダーM&Aの魅力

 まずはインドネシアで現地企業をクロスボーダーM&Aで譲受するメリットについて書いてみたいと思います。

東南アジアでの生産拠点の確保

 従前から言われていることですが、インドネシアに生産拠点を持つことで日本で生産するよりも低い生産コストでの生産が可能になること。また、ASEAN周辺国・中東・欧州へ日本から輸送するよりも、安価な輸送コストでの輸出が可能となることはインドネシア企業を譲受するうえでの大きなメリットです。インドネシアはすでに多くの日系企業が進出しているため仕入・輸送の面でも現地の日系企業と連携することで、新規の進出でも頼りにできるところは多いものと考えます。

世界4位を誇る人口で形成される消費市場の獲得

 現在のインドネシアの人口は、2023年で2億7,870万人※1です。この人口規模をターゲット消費者とした大きな市場を獲得できることは、企業にとって大きな魅力でしょう。また、インドネシアの1人当たりGDPは4,784USドル※1ですが、ジャカルタ・スラバヤなどの都市ではより高い購買力があると実感しています。
 実際に私がジャカルタに出張して現地で飲食をしたり、スーパーで買い物したり際には日本よりも高く感じることが多くあります。日本円換算で1食1,500円程する飲食店での昼食も、周りを見渡すとほとんどがインドネシア人です。多くの人口に対して安く大量に売るだけではなく、単価の高い高級志向の商品を売るという観点でも非常に大きな可能性を秘めている市場です。
※1 インドネシア 概況・基本統計(JETRO)

ハラール市場へのゲートウェイ

 インドネシアでは人口の約90%※2がイスラム教徒です。そのため街中のスーパーやコンビニで見かけるほとんどの商品には、イスラム教の教義に則って製造されていることの証明である「ハラール認証」のマークがついています。
 現在、インドネシアは、インドネシア国内で販売される商品へのハラール認証義務化の動きが推し進められている※3ので、インドネシアに生産拠点を構えたり商品を輸出をしたりするうえでは、ハラール認証が必須と考えていただいて良いかと思います。ただし、インドネシアにはハラール認証の取得をサポートする会社もあり、そこまで大きな懸念にはならないと考えます。
 まずは実際に、インドネシアで商品を販売しながらイスラム教徒の嗜好や傾向を理解しマーケティングや商品開発をしていくことで、さらにマレーシアなど他のイスラム教国への進出や、それらの国から訪れた人々向けの商品展開が日本でも可能になるでしょう。
※2 インドネシア共和国 一般事情(外務省)
※3 ハラール認証新制度、進展するも運用は不透明(インドネシア)(JETRO)

インドネシアでM&Aをする難しさ

 ここまでインドネシアでのクロスボーダーM&Aのメリットを述べましたが、次は難しさについても触れたいと思います。まだ色々と整備がされていない側面がある国でもあるので、日本の常識では驚くような難しさが存在するのも事実です。

法令が変わりやすい

 インドネシアは、本当に法律が良く変わる国です。M&Aに関連が深い法律では2020年11月に「雇用創出オムニバス法」※4という法律が施行されました。それ以降も細かく法律が変更されており、常に最新の法令をウォッチする必要があります。自力で最新の法令を確認するということには限界がありますので、この点については専門家の力を借りることが必須です。
※4 雇用創出オムニバス法案が可決、企業活動への影響必至(インドネシア)(JETRO)

二重帳簿・複数帳簿

 インドネシアでは、いわゆる「二重帳簿」による問題も散見されます。具体的には、実態の帳簿・銀行提出用の帳簿・税務申告用の帳簿の3種類の帳簿を作成しているケースが多く、二重どころか三重帳簿なのです。インドネシアのほかにもASEAN主要国ではしばしば見受けられる問題ですが、特にインドネシアでは、M&Aを検討するうえで避けて通れない問題の一つと言えます。
 なお、複数の帳簿があることで生じる主要なリスクとしては、下記の2点が挙げられます。

  • 企業の実態の把握が難しい
  • 税務申告の不足による簿外債務のリスク

 どちらも、対象会社とのコミュニケーションで細かく確認をすることが必要となり、いかに対象会社と信頼関係を築き、詳細な情報を引き出すかがカギです。税務申告の不足は、M&Aを検討するうえでの税務デューデリジェンスで明確になるのですが、デューデリジェンスまで進めておきながら検討を中止するとなるとそれまでの検討コストが無駄になります。そのため予めしっかり把握をしておくことと、簿外債務の影響を受けないように契約条項に事前に盛り込むことが肝要です。

申請等の不備

 インドネシアの中小企業では法令上必要な行政登録や申請、報告がされていないケースが多々あります。具体的には雇用状況の報告や土地の建設権(HGB)の設定、KBLIコード(事業目的コード)の設定です。

雇用状況の報告

 インドネシアでは、雇用主が「雇用状況報告書」の提出が必要です。この報告書の提出が漏れていた場合、過去分を修正ができないケースがあります。「雇用状況報告書」については、提出の有無を対象会社に確認し、もし漏れているような場合は、出資の決定までには報告体制をしっかりと整えることが必要です。その過程では、過去の不備に対する訴求をされる可能性もあるため、対応は対象会社と十分な協議が必要です。

土地の建設権(HGB)、KBLIコード(事業目的コード)

 土地の建設権については、インドネシアでは企業は土地を保有することができないものの、建物を建築して所有することはできます。この建物の建築と所有のために、建設権(HGB)が必要となります。KBLIコード(事業目的コード)については、本来、インドネシアで事業を行う際に必要な事業ライセンスなのですが、それが無いまま企業活動が行われているケースがよくあります。
 どちらも、M&A後外資企業となり運営を行っていくうえでも必ず必要なので、M&A実行までにすべて揃えておくための手続きや交渉が必須となります。

インドネシアのクロスボーダーM&A

 ここまでご紹介したインドネシアでのクロスボーダーM&Aの難しさを読んで、すっかり意気消沈してしまった方もいらっしゃるかもしれません。
 日本M&Aセンターでは、2013年に海外支援室をスタートさせ、インドネシアの拠点は2019年に開設しました。その中で、インドネシアでのクロスボーダーM&Aを支援した実績が多数あります。また、インドネシアの拠点長をつとめる安丸は、前職時代からインドネシアでの経験が長く、2013年の海外支援室立ち上げメンバーでもあります。
 難しい点がありつつも、とにかく魅力の多いインドネシアです。ぜひ、貴社のインドネシア進出の支援を担当させていただきたく存じます。
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 日本M&Aセンターでは、中立な立場で、譲渡企業と譲受企業双方のメリットを考慮にいれたM&Aの仲介を行っております。また、日本企業による海外企業の買収(In-Out)、海外企業による日本企業の買収(Out-In)、海外企業同士の買収(Out-Out)も数多く手掛けてまいりました。
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