Xin chào(シンチャオ:こんにちは)!
3月中旬以降、ベトナム政府はWithコロナ政策に切り替え、国境が正常化するとともに、ホーチミン市内で外国人を見かける機会も増えてきたベトナムです。雨季前のホーチミンは少々暑いですが、日本で重度の花粉症で苦しんできた私にとってはこの時期は天国です。
日本企業には理解できないベトナム会計事情
いきなり超ヘビー級のトピックですが、ベトナムM&Aでは避ける事のできない永遠のテーマを今回は取り上げたいと思います。
前回のブログでも少し取り上げ、日本企業には理解できない事なのですが、ベトナムのローカル企業では、当たり前のように二重帳簿(内部管理用、税務用)や三重帳簿(内部管理用、税務用、対銀行用)が存在します。感覚的には9割以上のローカル系未上場企業は複数の帳簿システム(以下「二重帳簿」に統一)が存在するといっても過言ではないかもしれません。これは日本企業にとって買収検討時の最大のハードルとなります。
ベトナムで二重帳簿が必要とされる背景
我々、日本企業に勤務しているとなかなか理解しがたい事ではありますが、ベトナムで二重帳簿が必要とされる主な背景は下記の2点です。企業によっては、どちらか一方の場合もあれば、両方という場合も多々あります。
- 節税
- 不透明な事業経費の捻出
それぞれについて、詳しく説明します。
(1) 節税の観点から
日本には優良申告法人という表彰制度があり、税金を多く払うことは「善」、まさに社会貢献であるというイメージが強くあります。真逆のサプライズなのですが、ベトナム一般において、税金は「悪」のイメージ、税金自体とその使途に対する不信感が根強いものがあります。
税金を原資として行われる公共投資や公共事業においては、管轄省庁役人の個人的な利得と直結している不正取引のニュースは絶えず、不正を取り締まるべき存在である警察、公安、税務署、税関等の当局自体における汚職が、日常の身近なところで散見されます。エリート官僚と事業家が結びつき、その家族親族が豪邸や高級車を所有し、その子女は海外留学をするという、格差がある社会構造は、現代ベトナムの残念な一面でもあります。
共産党の一党独裁の国家制度に加え、国民同士で南北に分かれて血なまぐさく戦ったベトナム戦争などの歴史的背景もあり、血のつながりを重視した縁故主義は政治やビジネスの世界でも根深く、ベトナムの行政に対する信頼感は日本における民主的に選出された行政に対するものとは相反するものがあります。このような現地事情が税金・政府への強い不信感につながり、未発展な社会保障制度も相まって、(納税を回避)、自分の身は自分で守るという思考回路が、横行する節税脱税行為に色濃く反映されているものと思われます。
(2) 不透明な事業経費の捻出の観点にて
節税とは別の論点として、円滑な取引関係の維持、事業運営に必要な許認可等を円滑に取得する為に、税務帳簿上に経費算入可能な不透明なファシリティコストが発生する場合があります。その資金をプールする目的で内部管理用の二重帳簿システムを採用するケースも多いです。
具体的な業界でいうと、地方政府とのパイプがものをいう不動産や建設工事業、通関業務が必要となる輸出入関連業、そして大きな権益を持っている国営企業(公共事業)へ製品やサービスを納入する業界になります。これらの業界では、正式な請求書※が存在しない、税務上費用計上できない不透明なコストを捻出する為に二重帳簿が必要になるのです(本編ではその詳細な手口は割愛)。
※VAT請求書(付加価値税込み請求書)、2021年からは電子インボイスが導入
経費とは別に、売上の問題でも、B2C事業(個人への販売業)においては、顧客の要望もありVAT分(10~8%)税金を回避することは一般的に見られます。その場合は事業者側で売上計上できず、内部管理用口座(個人口座)にて売上を入金することになります。一方で、仕入代金の支払いもサプライヤー側の個人口座を通すことが必要となり(サプライヤー側の売上にも計上されません)、二重帳簿が自社のみならず川上に向けて広がっていくという、日本では信じがたいエコシステムが実在します。
今後のベトナムにおける二重帳簿のゆくえ
二重帳簿が横行する、まだまだ未成熟なベトナム社会の「現在」の影の部分に関してお話してきましたが、一方で「未来」に向けて明るい変化もあります。2010年代以降、開国政策に大きく舵を取るベトナムにおいて、コンプライアンス先進国である欧米諸国をはじめ、多くの外資企業の参入が加速しております。グローバライゼーションという黒船の影響は大きく、官民の両面で意識改革が進みだしており、現在ベトナムは旧来のローカルプラクティスと決別していく過程の真っ只中です。
例えば、トランスペアレンシー・インターナショナル社が発表しているCPI(腐敗認識指数)の推移を見ると、ベトナムは過去5年間で世界180ヵ国中ランキングは2017年の113位から、2021年は87位へ大きく上昇しております。2021年のその他の東南アジア、東アジア諸国の順位(シンガポール4位、日本18位、マレーシア62位、中国66位、インドネシア96位、タイ110位、そしてフィリピン117位)と比較すると、先進国にはまだ差があるもの、ASEAN諸国の中進国レベルに既に追い付いてきていることが分かります。2000年代はダントツで悪評の高いベトナムでしたが、2015年を境にCPIのスコアが改善し、その結果ランキングも上昇しました。
(まったくの余談になりますが、サッカーワールドカップのFIFAにおける順位も150位前後から100位前後と急伸し、近年は隣国タイを抜き、東南アジアの首位の座となっております。)
ベトナムのCPIスコアの変遷
出典:Transparency InternationalのCPIスコアを元に日本M&Aセンターが作成
https://www.transparency.org/en/cpi/2021/index/vnm
日本企業とのM&Aをきっかけにグローバル基準へ
ベトナムは様々な意味で成長が早い国です、この制度・意識改革の波が加速し、10年後には二重帳簿が完全に過去の産物となること、それにより健全なM&A取引が増えていくことを、日越の連携を支援する者として心から願っております。実際に現場では、最近は現地経営者より、日本企業とのM&A検討を機に、グローバル基準に合わせてコンプライアンス・ガバナンス面を強化して、長期目線でサスティナブルな成長を目指して行きたいという嬉しい声が、当たり前のように聞こえてくるようになりました。
今後もそんな志の高いベトナム会社と日本企業にM&Aを通じて繋げて参ります!
次回はM&A実行時における、二重帳簿への具体的な対応策に関してお話したいと思います。Chào(チャオ:ではまた)!
※第2弾はこちらからお楽しみください。
ベトナムM&Aの問題編 その2:二重帳簿への対応?
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日本M&Aセンターの海外M&A支援
日本M&Aセンターでは、中立な立場で、譲渡企業と譲受企業双方のメリットを考慮にいれたM&Aの仲介を行っております。また、日本企業による海外企業の買収(In-Out)、海外企業による日本企業の買収(Out-In)、海外企業同士の買収(Out-Out)も数多く手掛けてまいりました。
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