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 Xin chào(シンチャオ:こんにちは)!
 11月上旬、南国ベトナム・ホーチミンでも早朝は少し肌寒く感じる時もありますが、日中は30度を上回る夏日が続きます。市内の商業施設にはクリスマスツリーが飾られはじめ、季節感のギャップを乗り越えるたくましい商魂を感じます。
 さて今回は、ベトナムでのM&A投資における問題編の第3弾、「厳しい競争環境」に関してお話させて頂きます。

※第1弾・第2弾はこちらからお楽しみください。

ベトナムM&Aの問題編 その1:何故二重帳簿が存在するのか?

ベトナムM&Aの問題編 その2:二重帳簿への対応?

日本M&Aセンターのベトナム拠点を構える、ホーチミンビテスコタワーオフィスのクリスマスツリー

独占交渉権をめぐる激しい戦い

 先週ハノイで、日越間のM&A案件の成約式に参加しましたが、本M&Aディールの独占交渉権をめぐる激しい競争を改めて思い出しました。

コロナ禍はピンチか?チャンスか?

 今年年初よりコロナ渡航規制がある中で、とあるM&A案件について日系3社が前向きに検討を開始。各社はオンライン面談に加え、リモートでビデオカメラを持ち込みバーチャル工場見学も実施しました。日系企業以外にも韓国企業等からの積極的なアプローチがあったこともあり、日本M&Aセンターでは、バーチャルデータールームを設置し各種情報をデジタルで取得できる環境を用意したうえで、各社に早期LOI(意向表明)の提出と独占交渉権の獲得をお勧めするアドバイスを致しました。
 日系3社の内2社は対面での面談にこだわりを見せ、これ以上は進められないと中断されました。今回成約の譲受企業では、競合が動けないコロナ渡航規制をむしろチャンスと考えてスピード重視で検討を行い、渡航前にLOI(意向表明書)を提出、今年4月の入国規制の撤廃と同時に社長自らが渡航し、基本条件の合意と独占交渉権をセットで早々に取得しました。他の2社からは「7~8月頃に海外出張が解禁となるので、それまで待ってほしい」との要望がありましたが、残念ながら今回は土俵に上がる事すらできませんでした。
 譲渡側企業によると、基本合意の1週間後に、他社から新たなオファーが入り、その後も複数の好オファーが舞い込んできて頭を悩まされたとの事でしたが、独占交渉権を尊重して頂き無事に成約まで進めることができました。

競合他社の強引なオファーも

 先月も別件で、1日の僅差で独占交渉権を獲得できたケースもありました。対抗馬のタイの競合企業は全ての条件面を上回るオファーを後出してきて、更に「(譲渡側が日本M&Aセンターに支払っている)アドバイザリー手数料の倍以上を払う」と言い、買手候補を切り替えるようにと、譲渡側企業に揺さぶりをかけてきたそうです。アグレッシブなアプローチからは、このM&Aディールがいかに他社にとっても魅力的であるかを感じ取ることができました。
 しかし、日本M&Aセンターでは各方面から情報収集に努め、譲渡側と買収側(譲受企業)の各時間軸のギリギリのタイミングをなんとか調整することができました。私は、「勝った負けたが世の常」を常に実感させられるM&A業界に20年在籍していますが、「生き馬の目を抜く」とはこのことか……。と久しぶりに実感した次第です。

独占交渉権とは?

 「独占交渉権」とは、買手である譲受企業と売手である譲渡企業との間で、一定の間に独占的に交渉することができる権利の事です。一般的に買収ターゲット企業の選定後に、初期的な面談(対面/オンライン)で相性を確認し、守秘義務契約を経て、企業情報と事業内容を精査の上で基本条件の合意に進みます。その後、買収監査、最終契約、そしてクロージングという流れになります。各種専門家をアサインし、多額なコストが発生する買収監査を実施する前に、基本条件を両当事者合意の上で、独占交渉権を譲渡側が譲受側に付与することが通例となっています。

引く手あまたの優良企業を獲得するには

 ベトナムでのM&Aを甲子園に例えると、まず地方大会で日本企業同士が予選を行い、全国大会本選で、日本企業以外のグローバル会社が入り混じって熾烈な獲得競争を行うという感じでしょうか。

グローバル企業と勝負する厳しさ

 海外M&Aを検討する多くの日本企業からは、「日本企業の傘下に入るほうが、従業員を大切に長期的な視点で経営をするからメリットがある」「譲渡側も譲受企業をしっかり精査するべきだ(日本企業である我々を選んだ方が安心なはずだ)」、「企業規模が大きく意思決定に時間がかかるので、検討スピードを合わせてほしい」といった声をよく頂きます。このような国内市場では一定の理解を得られるだろうメッセージも、残念ながら海外では神通力を失います。
 優良なベトナム企業の譲渡案件はタイ、シンガポール、韓国といった従来からの積極的投資国に加えて、特に近年は米国や欧州先進国のグローバル企業、また最近力をつけてきた現地国内企業からも積極的なアプローチを絶えず受けます。譲渡側は、日本型の詳細な事業シナジーや買収後の成長戦略の検証作業は二の次に、経済的な条件(金額)と検討スピードをセットに買収側(譲受企業)の本気度を最優先で検討し次々と結論を出して行きます。逆に各オファーの検討に時間をかけすぎると、現地のビジネス環境におけるダイナミックな変化についていけなくなるといった事情もあるかもしれません。

3倍速で動く!

 世界的にも「日本企業の検討スピードが遅すぎる」、「そもそも買い手として見なしていない」といった悪評が上がっているのも事実で、大親日国家であるベトナム市場においては、まだギリギリ土俵に上がれるといった状況です。海外で勝負をすると決め、自前進出ではなくM&A戦略で“時間を買う”と決めた時点で、世界の競争相手と本選が始まると考えてください。実現性はともかく、「従来の3倍速で検討が必要」だと覚悟を決めて、是非一緒に取り組んで頂きたいと思います。

 現地企業からは「遅すぎる」、日本企業からは「早すぎる」という批判を受け、板挟みになりがちな日本M&Aセンターの立ち位置ですが、今後も両国の架け橋となり当事者全員に満足いただけるM&A事例を量産していきたいと考えています。その結果、まずベトナムにて「日本企業とのM&Aは時間がかかるけど、結果は大成功である」等の良い評判を広めて行けると確信しています。
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 日本M&Aセンターでは、中立な立場で、譲渡企業と譲受企業双方のメリットを考慮にいれたM&Aの仲介を行っております。また、日本企業による海外企業の買収(In-Out)、海外企業による日本企業の買収(Out-In)、海外企業同士の買収(Out-Out)も数多く手掛けてまいりました。
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