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 私が、日本M&Aセンター海外事業部に参画した2018年4月から約5年間の間、様々なクロスボーダーM&A案件に携わってきましたが、とりわけ建設がらみの案件は産業の構成分布上の理由からも非常に多くの譲渡案件のご相談を頂いております。一方で日系企業による海外建設会社(広くサブコン企業や建設資材卸も含む)の買収事例は案件数対比そこまで多くありません。もちろん大手ゼネコンは海外でも引き続き好調で買収事例も存在しますが、それに続くサブコン、建材卸業者の海外進出の勢いが弱いように感じます。
 日本国内においては技術者不足による設備工事関係のM&A、地域拡大や取り扱い商材の拡充を目的とした卸売業のM&Aは非常に多く行われているのにもかかわらず、なぜ海外案件は事例が少ないのか、このブログで私なりの意見を述べたいと思います。

日系建設会社の海外進出

 日本の建設会社の海外進出が本格的に始まったのは1970 年代以降※1で、その後一進一退を繰り返しながら2022年には20,485億円の受注実績※2となっています。
 進出の経緯としてはODAや日系企業によるFDI(Foreign Direct Investment、対外直接投資)に対する大手ゼネコンの受注が中心ですが、付随する設備工事会社、建材卸業者が併せて進出をしてきました。1970年当時、ODAやFDIの対象の中心であった中国、東南アジアのアジア諸国では日系企業の求める技術レベルに適うローカル企業が多く存在しておらず、日系ゼネコンも日系サブコンや建材卸売り業者に頼らざる負えない状況があったからです。逆にサブコンや卸企業からしても現地企業の支払い能力不安がある為、日系ゼネコンから仕事を受けて海外進出をするほうが安心という側面がありました。
※1:国土交通省「我が国建設業の海外展開戦略研究会」https://www.mlit.go.jp/sogoseisaku/economy/strategy/report.pdf
※2:一般社団法人海外建設協会「海外受注実績の動向」https://www.ocaji.or.jp/feature/overseascontract.html

海外建設市場での日系企業

日系大手ゼネコンの業績は引き続き堅調だが……

 海外建設市場が伸び続けている中で日系企業が占める割合で見てみると2002年には9.2%※3だった日系企業の占有率が2018年には4.0%※3と減少しており、他国の建設会社と比べて相対的に日本企業の存在感が低下していることが分かります。とは言え、日系大手ゼネコンの業績は引き続き堅調で海外売上比率は年々増え続け、絶対額としては増加していることが間違いありません。ではなぜ、本来ゼネコンの成長と共に拡大するはずのサブコン、建材卸業者が同じように現地の拡大が進まないのでしょうか。
※3:一般財団法人建設経済研究所「建設経済レポート」(No.72)https://www.rice.or.jp/wp-content/uploads/2021/06/NO.72.pdf

ローカル企業の台頭、日系村からの脱却を狙うも……

 日系サブコン、建材卸企業の海外市場での苦戦は、ローカル企業の台頭と、日系案件の脱却を進めたゼネコン対して、サブコン、建材卸業者のローカル化が進んでいないことが大きな要因だと考えています。
 海外進出が進んだ1970年台は技術力の問題で日系ゼネコンは日系企業を優先的に採用していました。しかし2023年現在ではローカル企業のレベルも上がり、日系企業と遜色ないサービスを提供出来るようになってきています。さらにコスト面でも現地企業でありサプライチェーン、マネジメントもローカルであることから、日系企業よりも競争力があることは間違いありません。
 ある運送会社の役員から現地で倉庫の建設の相見積もりをローカルと日系それぞれに取ったところ、日系企業からは3倍の値段を提示されたというお話を伺ったことがありますが、同様の話が非常に多いのではないかと想像できます。これは日系に依存したサプライチェーンの問題、自社でローカル労働者をうまく抱えられず外注に頼らざるをえない人材の問題も大きく関係しています。
 日系企業に頼れなくなった現地の日系サブコン、卸売り業者が次に目指すのはローカル企業からの受注ですが、すでに述べたようにローカル企業との競争ではコスト優位性がなく仕事がそもそも取れません。さらに多くの海外地域では建設業が外資規制業種となっていることや、現地のネットワーク(華僑ネットワーク等)など閉鎖的な市場環境であるため、日系ODAやFDIなどの恩恵なしに自社単独で勝ち抜いていくことは、非常に厳しい状況です。
 コスト構造を見直し、現地マネジメントを増やし、ローカル化を進めている企業も増えてきていますが、長年続く企業体質を変更することに時間がかかったり、優秀な人材は他社に引き抜かれたりとやはり上手くいっていないのが現状だと思われます。
 拡大も出来ない、撤退もコストがかかる為、結果現状維持のまま現地法人の方向性を確定出来ていないケースは非常に多く、こういった問題意識を持った企業様からご相談頂くケースが非常に増えています。

クロスボーダーM&Aによる問題解決の可能性

サブコン、建材卸業者も勝ち馬に乗って、グローバルへ

 M&Aコンサルタントの私からこの話を取り上げるのは営業的側面が多いように感じられるかもしれませんが、心の底からM&Aがこれまで述べてきた困難を解決していくための非常に有効な手段だと考えています。
 ローカル企業で活躍している“勝ち馬”に乗り、ローカルネットワークの獲得、人材の獲得、案件の獲得、コスト競争力の強化が目指せます。また、譲渡企業にとっても、日系企業ブランドの獲得、技術ノウハウの獲得、大手と組むことにより大型案件の獲得が可能になる点は非常に魅力的でまさにWin-Winの関係となりえます。
 また元来の顧客である日系ゼネコンにとっても、ローカル企業への発注はコスト構造が見えづらいこともある為、コストが合うのであれば日系のサブコンや卸業者と付き合うメリットは大いにあります。

撤退も戦略のひとつ

 1社でも多くの日本企業が海外で活躍をしてほしいと思っている私個人としては拡大のための企業買収を強くお勧めしたいところですが、「海外からの撤退」という側面でもM&Aの活用を検討することも有効です。戦略的に海外市場拡大を諦めて国内市場に集中する場合、既に立ち上げてしまった現地法人をどうするか、採用した人材をどうするかという問題が発生します。そこで、M&Aで他社に売却することで、そのような問題も解決できる可能性が非常に高いです。

事例紹介

 下記に弊社が過去ご支援をさせて頂いた建設関連の事例をご紹介させて頂きます。買収を完了された現在も順調に業績が推移されており、実施されたM&Aが海外戦略にとって有効であり、2件目、3件目を検討いただいているお客様も多くいらっしゃいます。 
 弊社からご紹介する譲渡企業は売上で数億円~数十億円規模と比較的取り組みやすく、当期利益率10%超と高い(日本の平均は数%)優良企業が多く、自社のみでは解決の出来ない問題を根本的に解決に導く可能性が高い選択肢になりえると考えています。

ケース1「サブコン」

自社で進出をしていたものの、ローカル案件が獲得できなった。ローカルの大手企業を買収することにより、ローカル人材、ネットワークにより受注の拡大を目指した事例

ケース2「ゼネコン」

日本ではゼネコンとしての地位を確立。一方で海外では建物の修繕工事を中心に安定した収益を求めて現地企業を買収した事例

ケース3「プラント工事」

日本国内ではプラント工事を中心に行う。通信インフラ需要の拡大を見込んで電気通信工事業者を買収した事例

ケース4「土木建築」

現地拡大の足掛かりとしてローカル企業へマイノリティ出資を実施。ローカル案件開発を進めた事例

日本ブランドを共に守っていきましょう!

 日系企業が譲り受け先として譲渡オーナーから好意的に受け入れられる現在、買収交渉は比較的やりやすいといえます。一方でこの“日本ブランド”は私たちの先代が築き上げてきたものであり、将来いつまで持続できるものなのか誰にもわかりません。
 海外戦略をどうしていくか、待ったなしの状況で是非前向きに海外M&Aを検討いただけたらと願っています。
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 日本M&Aセンターでは、中立な立場で、譲渡企業と譲受企業双方のメリットを考慮にいれたM&Aの仲介を行っております。また、日本企業による海外企業の買収(In-Out)、海外企業による日本企業の買収(Out-In)、海外企業同士の買収(Out-Out)も数多く手掛けてまいりました。
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