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こんにちは、ジャカルタの安丸です。インドネシアではコロナ禍以前のように、外国からビザなしでの渡航が解禁され、出張者、旅行者合わせ日本からの渡航者もかなり増えてきています。ホテル・レストラン等も活気が戻ってきました。
またメイン道路では交通渋滞も顕在化し、ジャカルタの日常が戻ってきた印象です。ただ日本でのコロナ第7波に準ずるかのように、インドネシアでも再度感染者が増加の傾向があり、再度屋外でもマスク着用義務が発せられる等、予断を許さない状況は続いています。政府は4回目のワクチン接種を医療従事者に開始しました。早く収束して欲しいところです。

クロスボーダーM&Aを確実に成功させるために

今回は、M&Aで最も重要であるPMIについてお話しします。M&Aのゴールは“成約”ではありません。投資側の日本企業と投資を受けるインドネシア企業両社が、思い描く成長を共に実現できた時がM&Aのゴールです。
特にインドネシア企業とのM&Aは前回までのブログ記事でもご説明の通り、他のASEAN諸国と比較しても難易度は高く、成約に至ってもそれからのPMIについて正しく過程を踏んでいかないと思い描いたゴールにたどり着けません。また軌道に乗るまでの期間については、かなり時間を要しますので、投資企業側では、“忍耐・我慢”が必要なことは言わずもがなかと思います。よってPMI計画については余裕を見ての計画立案が必要です。

個別論点① 会計・税務領域 ・・・・

まず、PMIで必須の会計・税務領域の統合についてです。こちらは予想以上にインドネシアの場合時間を要します。そもそもインドネシア企業の財務諸表の透明性が低いことが最大のポイントです。

未上場企業の場合、当然のようにIn-house決算書(実際の利益が出ているベース)と対税務局&銀行用の節税ベースの決算書(一定の規模の会社は監査済のものもあり)の通常2種類が作成されている点があげられます。仮に監査を受けていても形ばかりの決算書もあり、投資後は会計事務所と相談し、外資企業(PMA)として一定の水準の決算書を作成していくことになります。またご承知の通り外資企業(PMA)企業となった場合、会計監査は必須となります。
この点インドネシアでの上場会社等の決算書が監査済で、比較的財務諸表の信憑性が高い企業については、会計・税務領域での統合は非監査企業と比較し簡単になります。
具体的には、未上場企業の場合、会計事務所の指導のもと、税務会計ベースの決算書をインドネシア会計基準の決算書(IFRSに近い財務会計ベース)へ変更していくことになります。インドネシアでの中小企業では、そもそもデーターを紙ベースで保管し、簡単なエクセル等で決算書を作成している(毎月の必要な税務申告のみ実施し、決算書作成は半期に1回のみのような会社もある)ことも多いのですが、PMAとなった場合、可能であれば会計システムを導入し、月次決算への対応、内部統制の整備、経営管理資料の作成、及び管理会計の導入の検討も必要となります。

よくあるケースとしては製造業で実地棚卸が曖昧で、この棚卸を簡易な形で実施し、原価計算が実態を現していないケースや、従業員の退職給付債務に関して未計上の場合等があります。また監査済みの企業の場合でも、連結ベースで月次で決算書を作成していくとなると、かなりの労力が必要となります。
そもそも会計システムへの入力に時間を有するケースがあり、会計事務所がどこまで関与するかについて、綿密に事前打ち合わせを実施する必要があります。会計事務所選択の良し悪しがインドネシアのPMIには多分に影響を及ぼします。なお決算後の税務申告については、監査済の決算書に基づき申告する形となりますので申告の時期及び税務当局からの指導が入るかどうかに留意が必要です。

個別論点② ビジネス領域

次にビジネス領域の論点について述べます。

まず統合後の経営ビジョンについて両社でしっかり共有することが必要です。成長のための戦略会議については、まず現状の把握、続いて問題点の抽出、そしてその改善対策を協議し、およそ3ヵ月後にどのような状態まで向上すべきか?についてしっかり共有しておくことが重要となります。その後おおよそ1年後のあるべき姿を共有しておく必要があります。その他、人材採用育成及び製造業では設備投資計画等の資金計画面のすり合わせが必要となります。
特に人材採用育成(雇用計画)は重要で、まず投資企業側の考えを、譲渡側インドネシア企業のパートナーへ説明し、それを踏まえ従業員へも開示の上、グループ企業としての経営方針をインドネシア企業のキーマン社員に落とし込むことが重要です。具体的には、投資企業としては、従業員に数年後にこのような社員になって欲しい(目標と育成方針の共有化)という明確な目標設定を個々に持てるまで指導していくことが必要となります。これにはインドネシア企業側のオーナーの協力が必要となります。インドネシア社員も最初は戸惑うケースが多いのですが、軌道に乗れば社員のやる気を引き出すことが可能となります。
また製造業では設備投資面でも、M&Aの交渉前から交渉の中で設備投資計画は共有しているものかと思いますが、M&A後はより詳細に今後描く成長戦略を説明させ、そのための設備投資計画を共有しておくことが重要です。特にその資金調達手段についてもインドネシア企業からはしっかりと説明させることが重要です。投資企業にとってもやはり成長戦略の中で、投資企業の資金繰りが最重要課題であることは明白で、配当政策と合わせ入念に打ち合わせをする必要があります。

最後に土地の所有権についても、前回のプログで紹介の通り、PMA企業となった場合は留意が必要です。きちんとHGB(Hak Guna Bagunan)と呼ばれる土地の使用権(建設権)を設定することが必要です。もしインドネシア企業と何らかの形でM&A後に揉め、この使用権の設定が出来ていない場合、製造業の場合この土地から出ていけと言われる可能性もゼロではないためです。

個別論点③ コミュニケーション領域

最後にコミュニケーション領域の論点について述べます。

M&Aで統合したわけですから、日本の投資企業としては、シナジーの創出を何としても実現させたいかと思います。ただ最初からシナジーを狙った経営をしていくのは時期尚早かと思います。
まず重要なのは、投資企業から派遣する人物の選定についてです。仮に日本からインドネシア企業に日本人を派遣する場合、なぜその人を選定したのかについて、インドネシア企業にきちんと説明し、理解を得ることが重要です。またその派遣される人物自体が、派遣につき自分に何が期待されているのか?について十分理解した上でインドネシアの地を踏むことが重要です。そもそも生活自体になれるまで時間を要しますが、じっくり取り組む必要があるかと思います。
また投資企業としては、自社の都合(投資回収等)を第一優先とするのではなく、インドネシア企業のかかえる問題&その不安解消にまずは重点を置く(じっくりと話を聞き、歩み寄る姿勢)姿勢を見せることがまず必要かと考えます。「上から目線」の対応は、インドネシアでは最も嫌われます。
まずは3ヵ月、そして1年と共有する目標を共に達成していくことが重要で、投資先のインドネシア企業の従業員から「オーナーにこの資本提携を決断していただいて良かった」「投資企業からは色々学ぶべきことがある」「成長のチャンスが広がった」という声がでてきて初めて、次のステップであるシナジーの創出が実現可能となることをご認識いただければと思います。

最後に

今回は、インドネシアのM&Aに関するPMIについて私の考えを述べました。言葉の壁、宗教、文化等日本とインドネシアは異なりますが、我々は同じ人間です。歴史的にもお互いを尊重できる国どうしかと思います。是非、ご一緒に両国の発展に寄与できる成長型M&Aを増やしていきましょう。

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