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 筆者は前職でインドネシアの会計事務所での勤務経験があります。アジア諸国のコンプライアンス意識の向上やコロナ禍を経て、税務署対応も変わりつつあるようですが、5年ほど前の駐在員時代に体験した税務署にまつわる異文化エピソードを今回ご紹介します。

税金の還付申告をしたら逆に追徴課税を受けてしまう!?

 日本の法人税は前事業年度の所得に基づいて翌期の中間納付額が決まり(予定申告の場合)、期末の時点で再計算をして最終的な税額を確定します。このとき、中間納付で払いすぎた法人税があれば、確定申告後に還付を受けることができます。税金は所得金額に応じて納税するものなので、過払いがあれば返してもらうということです。

 ところがインドネシアでは事情が異なっていました。私が所属していた会計事務所のインドネシア人税理士は、還付金額が少額な場合にはあえて還付の申告をしない(還付金を放棄する)ことを推奨していると言うのです。
 もちろんインドネシアでも還付の制度はあるのですが、当時、実際に還付を受けるためには必ず税務調査が入ることになっていました。日本でも還付手続に関連して税務調査が入ることがありますが、インドネシアの税務調査はより厳しい側面があり、様々な角度から “もっと所得がある”、“納付漏れの源泉徴収がある”との指摘が挙がります。添付書類の一部に体裁面の不備があるために損金として扱ってもらえなかったり、売上の認識漏れとして課税する一方対応する損金は認めてもらえなかったりといった具合でした。
 その結果、還付金は必ずと言っていいほど少なくなりますし、もともと還付の申請をしたはずが追徴の命令を受けるケースすら生じることがありました。

 税務調査の結果を不服とする場合には反論書の提出をすることが可能ですが、立証責任は納税者側にあり、しかも反論書の提出可能期間は調査結果の受領から7営業日と短期決戦です。さらに不服とする場合には税務裁判に進むことも可能ですが、長期戦となるため手続に係る負担は相応のものがありました。
 このような背景があり、少額の還付金であれば税務署対応の負荷に見合わないため、還付を手放すことを税理士は推奨していたのです。

還付を受けるために賄賂を支払う!?

 こうした還付手続をスムーズに進めるために、税務調査担当官に賄賂を支払っている企業も少なからず存在しました。これはインドネシアの地場の企業に限ったことではなく、日系企業でも、です。正しい税務処理・申告をしていれば、それが事実なのですから賄賂なくとも還付を勝ち取ることはでき、私が所属していた会計事務所は賄賂を使用しないことをポリシーとしていましたが、賄賂を所与としている強気な捜査官と正攻法で交渉することは確かに骨が折れるものでした。

 トランスペアレンシー社が公表する「腐敗認識指数」によれば、インドネシアは2021年に前年の102位から6位順位を上げ、96位へと改善しています。(ちなみに日本は2020年19位、2021年18位です。)インドネシアにはKPK(汚職撲滅委員会)という大統領直轄の汚職捜査機関もあり、賄賂撲滅に力を入れているため今後の改善が期待されています。

クロスボーダーM&Aに重要なこと

 もちろんクリーンな対応をされている企業もありますが、M&Aを検討・実行する際にはこうしたコンプライアンスの面にも注意が必要です。M&Aを行う場合には実行前にDD(デューデリジェンス)を行いますが、海外案件において特にその重要性が上がると言えます。また、日本の感覚と大きく異なる点もありますが、文化的な側面もあるため、過度に反応しすぎることなく、現地の実務や状況を把握したうえで契約の条件に織り込む等の現実的な対応を検討することが重要です。
 日本M&Aセンターではアジア各国に拠点を有しており、成約事例を含め現地の情報を蓄積している点でお役に立てるところがあるかと思います。

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