今回は、海外のローカル企業を買収する場合に必要となる法務デューデリジェンスの基本的な概要について書かせていただきます。
そもそもデューデリジェンスって何?
デューデリジェンス(Due Diligence)とは、買収監査といわれることも多いですが、株式譲渡などM&Aの実施にあたり、M&Aを検討している当事者がその意思決定に影響を及ぼすような問題点を調査・検討・検証する手続きのことであり、法務・会計分野をはじめ、税務・ビジネス・環境・不動産等、種々の分野ごとにそれぞれの専門家がチームを組んで実施する場合が多いです。
その目的としては、下記の三点について、調査・確認することにあります。
- M&Aの実行が法的に可能かどうか
- 予定されている譲渡価格は適正かどうか
- M&A実行後もトラブルなく事業活動を継続できるかどうか
膨大な作業に加え、関与する関係者も多くなり、加えて譲渡側・譲受側それぞれにも負担がかかる非常に大変な作業になります。とはいえ、現地の法令・慣習や買収対象の会社のことを何もわからず高額で買うなんて怖くてできないですよね。
法務デューデリジェンスの対象項目
では、法務デューデリジェンスにおいては具体的にどのような項目が監査対象となるのでしょうか。代表的なもののうちいくつかを以下に記載いたします。
会社組織(Corporate) | 設立(Incorporation)、定款/付属定款 (Articles of Incorporation/Bylaws)、機関構成、運営など |
---|---|
株式(Share) | 株式の種類(Type of Shares)、新株予約権その他の潜在株式(Share Option)、株主構成(Details of Shareholders)など |
契約(Contracts) | 顧客(Clients)、仕入先(Suppliers)、委託先(Subcontractors)、業務提携先(Business Partners)などとの契約 |
資産(Real Properties) | 不動産 (Real Estate)、動産(Movables)、債権(Credit)など |
負債(Financing, Borrowings, Liabilities) | 内容、条件 |
簿外負債(liabilities off the book)の有無 | |
知的財産(Intellectual Properties) | 特許権(Patent Right)、 著作権(Copyright)、商標権(Trademark Right)など |
実施許諾契約(License Agreement)など | |
第三者の権利の侵害の有無 | |
労務(Employment) | 労働条件(Working Conditions)、労働時間(Working time)、社会保険(Social Security)、福利厚生(Benefits)など |
許認可(License, approval, permission)、コンプライアンス(Compliance) | 営業許可、外資規制など |
独占禁止法、個人情報保護法など | |
訴訟その他の紛争(Litigation) | - |
事例:クロスボーダーM&Aにおける検出事項
次に、海外のローカル企業の法務デューデリジェンスにおいて実際に検出された事項の例を簡単にご紹介させていただきます(実際には業種毎、企業毎に異なりますので、あくまで一例のご紹介にすぎない点あらかじめご了承ください。)。
事例1:契約におけるチェンジオブコントール条項(各国共通)
対象会社が締結している契約に、対象会社の支配権に変更が生じる場合又は対象会社の経営陣その他の主要人員に重要な変更が生じる場合、相手方は契約を解除することができる旨の条項あり。
→特に大口の取引先の場合など、譲渡後に解除されてしまうと大問題であることから、M&Aの実行前に相手方から事前承諾を得る必要が生じた。
※チェンジオブコントロール(Change of Control)条項は、「COC」や「資本拘束条項」と呼ばれることもありますが、デューデリジェンスにおいて検出されやすい事項の一つ。上記のように、譲渡企業とその既存取引先等との契約において、譲渡企業の経営権・支配権の変更や異動が発生した場合に、契約内容に制限を設けられたり、もう一方の当事者によって契約解除が可能になる条項
事例2:グループ間取引に関する社内手続きの缺欠(各国共通)
対象会社がグループ会社との間で種々の取引を行っているところ、当該取引については法令上取締役会又は株主総会で承認される必要があるが、対象会社はこれまで必要な承諾を取得していない。
→取引が無効とされることを避けるため、対象会社において必要な承認を取得する必要が生じた。
事例3:株式譲渡に際して不動産の譲渡があったとみなされ課税される可能性(マレーシア)
対象会社が所有する不動産の取得時の価額が同時点の対象会社の有形資産の75%以上であった場合、対象会社はReal Property Gains Tax Act (不動産譲渡益法)の定める「real property company」に該当するため、M&A取引に伴い同不動産の譲渡があったとみなされ、M&A取引の譲渡価格の3%相当額の納付義務が発生する可能性。
→M&A取引の譲渡価格が高額であることから、3%であっても課税されるとインパクトが大きい。そこで、事前に対象会社が「real property company」に該当しないことについて、監督官庁から事前承諾を得る必要が生じた。
事例4:現地国籍株主(タイ)
対象会社が外国人事業法による規制の対象であり、株主にタイ国籍を有する第三者が51%の株式を保有していることから、買主が100%の経営権を取得することが難しい。
→事実上買主による対象会社のコントロールを確保する観点から、当該タイ国籍株主との間で株主間協定を締結することや、別途買主のほうでタイ国籍を有する株主となるべき自然人/法人を用意することなどを検討する必要が生じた。
デューデリジェンスは必ず
国内におけるM&Aにおいてもデューデリジェンスの実施は非常に重要であり、これなしでM&Aを成功させることは不可能と言っても過言ではありません。海外進出の手段としてのクロスボーダーM&Aの場合であればなおさら、現地の法令・慣習、対象会社自体のことなどわからないことだらけの状態からM&Aを検討することになりますので、デューデリジェンスを必ず実施して安全にM&Aを進めてください。
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