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はじめに~コロナ以降初の海外出張~

今年(2022年)5月下旬に、新型コロナ後初の海外出張でマレーシア・クアラルンプールへ行ってきました。

3年近く国外に出ていなかったため、失効していたパスポートの再取得や出入国のアプリ設定・ワクチン接種証明書の事前登録など出発直前まで多少手間取ったものの、特段の問題が生じることなく出張することができました。

今後は国際間の往来につき制限緩和が進むことが想定されますが、海外出張時は訪問国ごとに必要な手続など早めに確認のうえ対応されることをお勧めします。
※本ブログは2022年5月のマレーシア出張での体験をもとに執筆しています。渡航に関する最新情報は「外務省 海外安全ホームページ」等をご確認ください

東南アジア諸国の人件費上昇トレンド

マレーシア出張では、現地の日系人材紹介会社の担当者に話を聞く機会がありました。

現地では人件費が年率5%程度上昇しているとのことでした。これはマレーシアに限った話ではなく、新型コロナ前からASEAN諸国全体で概ね同様の傾向がみられます。ここに新型コロナによる人材需給逼迫が重なったことで、優秀な人材を確保するために年率7%以上の引き上げを考慮するケースもあるとのことでした。

ASEANはもともと人材の流動性が高いエリアでジョブホッピングに対する心理的ハードルが低く、一定の専門性を有する人材はキャリアチェンジの一環としてより好条件の職場に転職する傾向があるようです。その他、マレーシアでは労働法の改正があり、2022年5月に最低賃金が25%ほど引き上げられ、産業界から様々な意見が出ている状況とのことでした。
※JETRO「最低賃金を25%引き上げ、5月1日から実施(マレーシア)

JETROのWebサイトで公表されている世界各国・地域の投資コスト比較によれば、コロナ前の2019年の名目賃金上昇率は日本(東京)0.3%、これに対してマレーシア(クアラルンプール)5.15%(管理職)となっています。新型コロナ後のデータは2021年が日本0.9%でマレーシアのデータは確認が取れませんでしたが、現地の状況をヒアリングする限りでは2019年と同等の水準になっていることが想定されます。

現地ではポストコロナを睨んでコールセンターをはじめとする外資系企業のBPO業務の受け皿としてのニーズが従来以上に高まっており、人材の逼迫感が増しているとのこと。話を伺った人材紹介会社にも、BPO拠点開設に伴う比較的大口の人材採用プランの相談が複数寄せられているそうです。

マレーシアは多民族多宗教国家として有名ですが、現地にはマレー語に加えて英語、中国語を話せる多言語人材が一定数おり、これが世界のミドル・バックオフィス需要を引き付けている主要因と考えられます。

前述のJETRO投資コスト比較で非製造業・課長クラスの給与月額を見ると、東京4,737米ドルに対してクアラルンプール1,978米ドルとなっています。このように、ASEANでは若く優秀な多言語人材をリーズナブルに採用できる機会が多いと考えられ、賃金上昇率のみにフォーカスして本質を見誤ることがないよう留意が必要です。

その他参考資料として、イギリスの人材コンサルティング会社ECAインターナショナルが公表している2022年のアジア太平洋地域各国の実質賃金上昇率(物価変動の影響を除いた値)についての予想データを見てみましょう(2021年11月15日公表データ)。

アジア太平洋地域各国の実質賃金上昇率

国・地域 2022年 予想(%) 2021年(%)
ベトナム 4.2 3.5
中国 4 3.9
インド 3.6 2
タイ王国 3.2 3.1
マレーシア 2.8 1.5
インドネシア 2.5 2
韓国 2.4 1.4
フィリピン 2.1 0.5
シンガポール 2 1.2
台湾 2 1.6

(出典:ECAインターナショナル

このデータでは、ベトナムが4.2%で1位、以降は中国4.0%、インド3.6%、タイ3.2%、マレーシア2.8%と続いています。

企業評価への影響

譲渡対象企業が作成する事業計画(利益計画)に基づき企業評価を行う際に、当該計画の妥当性について検証を行うこととなりますが、前述の通りASEAN企業であれば人件費は考慮が必要な項目のひとつと言えるでしょう。

以下のシンプルな事例で人件費の上昇の影響を確認します。議論を単純化するために、原則として横引きの業績推移と仮定した場合に、人件費のみ年率7%上昇した場合の人件費と売上高営業利益率の変化を見てみましょう。

  X X+1 X+2 X+3 X+6 X+10
売上高 200 200 200 200 200 200
売上原価 120 120 120 120 120 120
売上総利益 80 80 80 80 80 80
人件費 30 32 34 37 45 59
その他販管費 20 20 20 20 20 20
営業利益 30 28 26 23 15 1
売上高営業利益率 15.0% 14.0% 12.8% 11.6% 7.5% 0.5%

この事例によれば、6年目に売上高営業利益率が半減し、10年目には人件費がおおむね倍増し利益の大部分を食い潰す、という結果になっています。

実際は人件費をはじめとする物価上昇の影響を一定程度価格転嫁し計画に加味することとなるため「横引きの計画に名目賃金上昇率のみ加味する」という前提そのものが現実的ではありませんが、人件費上昇のインパクトをイメージしていただけたのではないでしょうか。

人材面でも魅力のある東南アジア諸国

日本M&Aセンターマレーシア法人の現地採用スタッフと話をしているときに「生まれて最初に話していたのは英語だった」といったエピソードを耳にしました。こういったバックグラウンドを持つ人材を一定数擁するASEAN諸国は、コスト面のみならず人材の質の面でも国際的な競争力がますます高まっていくことが想定されます。投資先・進出先として、今後より一層魅力が高まるエリアと言えるでしょう。

新型コロナによる混乱を経てリスタートした世界経済の中でASEAN諸国が爆発的に成長していったとき、少子高齢化が進み民族・言語の多様性が少ない日本の立ち位置はどのように変化していくのでしょうか。

国際情勢の混乱が続き明るいニュースが少ない昨今ですが、現状に対し傍観者となることなく、自らの持ち場でM&Aをソリューションのツールとして活用いただくお手伝いをすることで企業の成長戦略実現の一翼を引き続き担っていきたいという気持ちを新たにしました。
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