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皆さま、こんにちは。

 世界では今まさにロシアによるウクライナ侵攻で国際社会そして世界経済が揺れていますが、海外案件を進める際に地政学リスクやカントリーリスクというものを意識する必要あります。また、外資規制という論点もしっかり検討しながら進めていかないと場合によってはディールブレイカーとなり得る場合があります。
 今回は私が過去に担当したタイの日系製造業案件についてその体験を少しご紹介したいと思います。

カントリーリスク、地政学リスクとは

 本題に入る前に、カントリーリスク、地政学リスクとは何かについて解説します。

カントリーリスクとは

 海外の国や地域に投資を行う際に、政治や経済等の変化によって資産の価値が変動する可能性のことをいいます。海外M&Aは、現地の会社を買収することなので、常に買収時点やその後のカントリーリスクを意識して検討していく必要があります。

地政学リスクとは

 ある国の政策や特性を地理的な要素から研究するのが「地政学」です。地理的な位置関係による政治的、軍事的、社会的な緊張に基づく悪影響が、「地政学リスク」や「地政学的リスク」と呼ばれます。

タイで私が直面したのは……

パワフルな経営者

 数年前、私はタイの案件に注力していました。

 対象会社はM&A巧者で有名な、とある経営者が率いるA社を主要得意先とした部品メーカーでした。国内の親会社よりも完全にタイ法人の方が大きくなり、案件化で現地の工場を視察した際、その光景に圧倒されたのを今でも鮮明に覚えています。
 そして、売り手社長がまた強烈でした。さすがアジアでグローバル企業を相手にビジネスしているだけあり超エネルギッシュ。そのパワフルさ、豪快さに毎回圧倒されていた記憶があります。

 前年にはタイで大洪水があり、その影響を受けつつも大量の簡易ベッドを工場に持ち込んで製品供給をし続けた話や、一緒にタイに進出してもらった下請け先の工場が洪水で完全に浸水し、そこの社長が男泣きしながら機械設備をA社の工場内に1週間だけ預かってもらった話などを聞き、アジアでビジネスすることがいかに壮絶で過酷なことか、そして経営者として30年突っ走ってきた花道を飾ってあげたいと心から思うようになりました。

政情不安と孤独

 お相手探しをスタートしてしばらくすると、自動車部品メーカーの優良企業から手が挙がり順調にDD(買収監査)まで進みましたが、その当時タイは政情不安で厳戒令が発令されていました。
 現地の情報収集をしっかりした上で安全と判断し予定通り現地でDDを行い、DD終了後、私1人だけ予備日まで残ることになりました。

 するとその日に突如、軍事クーデターが起きてしまいました。

 軍が政権を掌握し、まさに緊急事態。
 夜間の外出はかなり危険ということで夕方急いでチェックアウトし、空港に向かおうとしましたが、タイ国民全員が家路についておりタクシーはつかまらず…
 エアポートリンク(空港線)だけまだ動いているということで、とにかくスワンナプーム国際空港に向かおうと会社に緊急事態の連絡だけ入れて2kmほどスーツケースをかつぎ汗だくになりながら大渋滞の車の隙間を縫って全力疾走しました。
 あの時感じた異国での孤独感と焦燥感……正直心が折れそうになりました。

タイの外資規制

 DD自体もタイは外資規制が厳しいため、法務の調査でいくつかの難しい論点が新たに発見されました。
 例えば、外国人事業法(FBA:Foreign Business Act)および外国人事業ライセンス(FBL:Foreign Business License)の問題、得意先への原材料販売や外注先への有償支給は『卸売業』とみなされ外資規制の対象、製造工程で発生するスクラップ屑の業者への売却にはライセンスが必要など日本だと気にもとめていない取引が外資規制の対象やライセンスの対象になってきます。
 したがって、タイの製造業案件を進める際はビジネスモデルをしっかり把握した上で各取引を細分化し外資規制に抵触していないか、ライセンス等が必要か否かを検討していく必要があります。

事業内容とライセンスの関係

クロスボーダーM&A成功のためには

 結局、この問題の解決には5か月ほどの時間を要したため一時はブレイクも覚悟しましたが、最後まで諦めず解決策を考え抜き、最後は総力戦で成約まで導いたことを覚えています。
 このように専門家としてビジネスマンとして、そしてカントリーリスクをも身をもって体験できた海外案件験は今ではいい思い出でとなり私の財産になっています。

ということで、今回は日系の海外案件にまつわるエピソードをご紹介させていただきました。

 いわゆる現地企業のM&A案件を検討する際にも、その国の地政学リスクやカントリーリスクをある程度頭に入れておくとともに、M&Aすると外資規制の点でどのような影響があるのか、どのような対策が必要かを慎重に検討しながら進めていくことが成功への近道と言えると思います。
※本ブログは2022年4月に著者が自身の体験を基に執筆したものであり、記事中の現地の法令に係る部分は情報が古い可能性もございます。あらかじめご留意ください。

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 日本M&Aセンターでは、中立な立場で、譲渡企業と譲受企業双方のメリットを考慮にいれたM&Aの仲介を行っております。また、日本企業による海外企業の買収(In-Out)、海外企業による日本企業の買収(Out-In)、海外企業同士の買収(Out-Out)も数多く手掛けてまいりました。
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