今回は、海外子会社を有することで、海外進出を果たした企業が活用できるタックスプランニング手法のひとつ「外国子会社配当益金不算入制度」についてご紹介します。
そもそもタックスプランニングとは?
会社に課される税金を「コスト」と考えて、税法その他法律を遵守しつつ事業展開フローなどを工夫して税金コストの削減を目指すことを「タックスプランニング」と呼びます。税務上の特別な規定や、国際間の税率の差を活用することが一般的です。
ご存じの方も多いかと思いますが、日本は世界でも法人税率が高い国のひとつとして有名です。
現在、日本で活動する会社のもうけに対してかかる税金の税率は中小企業の場合で約34%(法人税・地方税の合計)です。東南アジア諸国と比較しても、シンガポールで約17%、ベトナムは約20%、マレーシアの約24%といった税率に比べて高くなっていることがわかります。
会社は事業活動の拠点となる国の法律に従って税金を納める必要がありますが、日本と比べて低い税率の国でビジネスを展開することで、グループ全体の税金負担コストを抑えることが可能になるケースがあります。
海外で子会社を有しビジネスを展開している日本企業が活用できるタックスプランニング手法のひとつとしては、「外国子会社配当益金不算入制度」があります。この制度について詳しく解説してみたいと思います。
外国子会社配当益金不算入制度とは?
これは、簡単に言うと日本の会社が一定の海外子会社から受ける配当について、その95%が非課税となる制度です。すなわち、海外子会社から受け取った配当については日本側でその5%部分のみ税金がかかるため、法人税率34%とするとその配当に係る税率は5% × 34%=1.7%と非常に低くなります。
なお、この制度を適用するためには、子会社の株式の25%以上を保有していること等の一定の要件があります。また、海外で源泉税が生じた場合は損金不算入となります。
例で見る外国子会社配当益金不算入制度のメリット
さっそく、例を見てみましょう。
ごく簡単な例として、日本の親会社A社が日本国内で300もうけた場合を「パターン1」とし、「パターン2」は、このA社の100%海外子会社でシンガポールにあるB社が、300もうけてA社に配当した場合とします。それぞれのグループ全体の税金負担を比較してみます。
<パターン1>日本の親会社A社が日本国内で300もうけた場合
下記の通り、日本の親会社A社が300もうけた場合の、税引後の手残りは198となります。
- もうけ 300
- 法人税 102
※300×0.34=102
- 手残り 198
※300-102=198
<パターン2>日本の親会社A社のシンガポール法人B社が300もうけた場合
日本の親会社A社のシンガポール法人B社が300もうけた場合の試算は以下の通りです。
まず、B社がもうけた300からシンガポールの法人税約17%を引いた249をA社の配当として受け取ります。外国子会社配当益金不算入制度を適用すると、日本の親会社A社に配当された249はこの5%の12に対して、日本の法人税がかかることになります。12の34%ですから、法人税として差し引かれる分は、4です。
つまり、249の配当からのA社での手残りは245となります。
- シンガポール子会社B社
- もうけ 300
- 法人税 51
※300×0.17=51
- 手残り 249 ⇒日本の親会社A社に配当
- ※300-51=249
- 日本の親会社A社(外国子会社配当益金不算入制度を適用)
- もうけ(B社の配当) 249
- もうけの5% 12
※249×0.05≒12
- 法人税 4
※12×0.34≒4
- 手残り 245
※249-4=245
※税率は簡略化のため、日本の法人税34%、シンガポールの法人税17%で計算。計算で生じた端数は切り捨て。
【日本M&Aセンター作成のイメージ図】
このように、グループ全体の税負担が大きく抑えられていることがわかります。
外国子会社配当益金不算入制度が導入された経緯
海外の低税率メリットを享受できない全世界所得課税
日本に本社がある会社は、国内で稼いだもうけだけでなく、外国で事業活動をして稼いだもうけについても日本で税金が課されます。これを全世界所得課税と呼びます。
この場合、もし事業活動をする国の税率が日本と比べて低かったとしても、日本の会社には原則として日本の税金が課されてしまうため結局その低税率のメリットを享受することができません(外国で事業活動して得たもうけに対し現地で課された税金があれば、外国税額控除という仕組みで調整します)。
現地で子会社設立しても……
そこで日本の会社が海外で事業活動を行う時は、現地に子会社を設立することが一般的です。海外の子会社が現地で稼いだもうけは原則として現地の税法で税金が課されます。現地の税率が低ければ、海外の子会社は日本の親会社よりも効率よく現地で内部留保を積み上げることができるわけです。
ただし、従来、海外子会社の内部留保を日本の親会社に配当で持ってこようとする場合、日本の税率で税金が課される取扱いになっていました。すなわち、税率が低い国に設立した子会社で稼いだもうけを日本に持ってくるときには、最終的に日本の法人税率が適用されてしまうため、海外の低税率メリットを享受することができなかったのです。
この状況を変えたのが外国子会社配当益金不算入制度でした。
外国子会社配当益金不算入制度が画期的といわれるワケとは
この制度の導入の意味合いとして、国際的な二重課税(海外での課税と日本での課税)を排除・簡素化する点と、会社がグループ経営において海外で稼いだ利益を効率よく日本に還流可能にする点が挙げられます。シンプルな税制にするだけでなく産業政策的な切り口が含まれている点が、この制度が画期的といわれる理由です。
この制度には、日本政府から日本の会社に対するメッセージ、すなわちシンプルで有利な税制を導入することで日本の会社のビジネス・収益構造を再設計することを目指し、少子高齢化が進む日本国内だけでなく、海外での企業活動を推進したいという意図が含まれているのではないでしょうか。
ビジネスチャンスを見逃さない経営者の皆様へ
近年、企業オーナー様とお打合せをしていると、商圏拡大に際して「東京(国内)に出るのか、シンガポールに出るのか、ベトナムに出るのか」というグローバルな視点を持っていらっしゃることが珍しくありません。商圏を国ごとに捉えるのではなく、あくまでも顧客がどこにいるのかというシンプルでフラットな視点で捉える傾向が強まっていることを肌で感じます。
社会的・経済的に不安定な情勢でも、ピンチはチャンスとばかりにM&Aによる海外進出を積極的に推進する企業様が多数いらっしゃいます。さらに、マーケットの拡大だけでなく有利な税制のメリットを享受できる海外進出を戦略の柱として捉える企業様が増加していることを日々実感しております。
クロスボーダーM&Aのサポートを通じて、皆様の事業の発展に寄与できれば大変うれしく思います。
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